非住宅木造で理想の大空間を実現する確かな構造設計

LIDトラス工法 開発者 ものつくり大学名誉教授 小野泰教授に聞く

小野泰さん
2018年にLIDトラス工法(リドトラス)の開発に着手してから、3年。在来工法(軸組金物工法)の軒桁にツーバイフォートラスを載せ、屋根の水平構面を実現できるのは、このLIDトラス工法ならではの特徴です。2021年には特許とベターリビング社の評定を取得しました。現在では、倉庫やスポーツ施設、店舗兼事務所など、多様な建物に採用されています。
“木造なのに建物内部に柱がいらない大空間” LIDトラスの構造について共同開発者でもあるものつくり大学名誉教授の小野泰さんにお話をお聞きしました。

非住宅木造化における「設計の壁」とは

近年、非住宅の木造化が注目されていますが、設計実務者が直面する構造上のハードルは何でしょうか?

住宅と非住宅では、まず設計時に想定すべき積載荷重(床に載る重さ)が大きく異なります。非住宅は住宅よりも重い荷重を見込む必要があり、それに伴う地震力への対応や屋根構面が大きくなることから強風・台風への対応がよりシビアになります。さらに大きな検討事項となるのが、木造建築物の延べ面積が200㎡を超える場合などに建築基準法で義務付けられている「構造計算」です。一般的な住宅であれば壁量計算やその他の仕様規定に基づく計算で済みますが、非住宅では計算の難易度が格段に上がります。

木造には「軽量ゆえの耐震性」という利点がある一方で、なぜ鉄骨造やRC造が選ばれる傾向にあるのでしょうか?

木造はRC造などに比べて建物自体の重量が軽いため、実は地震の影響を小さく抑えられるという大きな構造的利点があります。しかし、それでも多くの設計者が鉄骨造やRC造を選択されるのは、慣習的に取り組みやすい馴染みのある工法であること、経験の少ない複雑な木造の構造計算に慣れていないことや、広い空間(大スパン)を実現するために必要な木材の調達といったコスト面を考慮されるからではないでしょうか。こうした現実的な壁が、木造化を検討する際の大きな判断材料となっているのだと思います。

ランバーテック本社オフィスにて、実物のトラスを指し示しながら話す小野先生。

木造ならではのメリットを最大限に活かした設計が可能

そうした状況下で、LIDトラスが設計者にとって木造を選べる理由になるのはなぜですか?

LIDトラスの核心は、一言で言えば木造のトラス構造の小屋組が有する構造性能を数値化し、明確な評価基準を確立した点にあります。これまで不透明だった「小屋組がどれだけの力に耐えられるか」という指標を数値化したことで、複雑な構造計算のプロセスをシンプルに整理できるようになりました。これにより、設計者が抱える心理的・技術的なハードルを解消し、木造ならではのメリットを最大限に活かした設計が可能になったのです。

具体的な工法や、使用する材料のこだわりについても詳しく聞かせてください。

「LID=蓋(ふた)」の名の通り、在来軸組工法の外周部(軒桁)の上に、2×4材(ディメンションランバー)で組んだトラスを蓋として載せるハイブリッドな工法です。トラス構造の構造計算を行うには、部材1本ごとの曲げ強度や引張強度が明確でなければなりません。2×4材はJASに規定する構造用製材でこれらの性能が厳格に規定されているため、計算の根拠が非常に明確になります。住宅で使われる無等級材とは異なり、数値化された信頼できる材料を使うからこそ、最大約22mという大スパンも自信を持って設計できるのです。

図面では伝わりきらない圧倒的な存在感を放つ

JAS構造用製材による信頼性と、数値化された水平構面

構造としての強みを語る上で欠かせない「水平構面」ですが、その根拠をどう確立されたのでしょうか?

実はこれまでの在来軸組工法では、屋根の強さを数値で示すことが非常に難しかったんです。品確法の住宅性能表示制度では、床倍率計算によって「水平構面」の評価が可能となっています。しかし、その対象は小屋梁の上に小屋束を立てる和小屋であってトラス構造や非住宅には適用できません。そのため、トラス構造の小屋組では、地震の力をどうやって壁である軸組に伝えているのか、その仕組みを客観的に証明しなくては構造的な解決にならないという課題がありました。

そこで私たちは2年以上の歳月をかけ、何度も実大実験を繰り返してきました。トラスの骨組みに厚さ12mmの針葉樹構造用合板を隙間なく張ることで、屋根の面だけで建物全体の剛性(変形しにくさ)を確保することに成功し、ようやく客観的な設計の根拠としてデータを示すことができるようになったのです。いくら壁だけを強くしても、それらを繋ぐ床組や小屋組の水平構面が弱ければ、建物全体で地震力に抵抗するすることができません。この小屋組と壁である軸組が一体となった構造の安全性こそが、LIDトラスの真骨頂といえます。

実際に行った実大実験

実大実験で証明されたその根拠は、設計の現場において、どのような形で確かな信頼として裏付けられているのでしょうか?

第三者機関による評定や特許の取得も大きなポイントです。LIDトラスは、国土交通省が指定する評価機関である一般社団法人ベターリビングから構造性能の評定を受けています。これは設計者にとって、お施主様に対し「第三者機関によって客観的に安全性が認められた、法的な根拠のある工法です」と自信を持って説明できる、非常に大きな信頼の裏付けになるはずです。

22mの大スパンと、意匠を活かした空間づくり

理論は非常に合理的ですが、実際に使いやすい空間なのでしょうか。

例えば、高い天井と広い空間が求められるボルダリング施設や、柱のない大空間が必要なバレエ教室などでの施工実績があります。バレエ教室の事例では、トラスの小屋組をあえて見せることで、木の温かみとリズム感のある美しい意匠を実現しています。バレエの練習には、80~100㎡以上、天井高4m以上の広さを確保できるスタジオが理想的と言われています。LIDトラスによる空間の広さを活かせば、ダイナミックな動きを伴う練習にも最適な環境をつくることができます。
また、お施主様の希望はもちろん、その先にいる施設の利用者がどういったシーンで使うのか、LIDトラスだからこそ描ける理想のイメージが、設計段階からより具体的に想像できるようになると思います。

バレエ教室:(10 x 13m / 壁高:3m 中央部高さ:4m)

持続可能な建築を実現するLIDトラス工法の“大空間”

最後に、これからの建築においてLIDトラスが果たす役割や、環境への貢献についてお聞かせください。

まずお伝えしたいのは、非住宅での木造建築を当たり前の選択肢の一つとして考えてもらいたいということです。今は脱炭素や環境に配慮した建築が強く意識される時代になりました。例えば、約200平米の倉庫を鉄骨造から木造にするだけで、年間約27世帯分もの二酸化炭素排出削減に貢献できます。
木造建築は、炭素を固定し環境負荷を抑えるための重要な鍵となります。このLIDトラスを通じて、持続可能な建築を実現するための確かな一歩を、業界の皆さまと共に踏み出していければと願っています。

小野 泰 名誉教授

小野 泰 名誉教授

ものつくり大学 建設学科教授

1958年宮城県仙台市生まれ。関東学院大学大学院修士課程修了後、(公財)日本住宅・木材技術センターにて20年間、木質構造の研究・試験に従事。2003年よりものつくり大学建設学科教授を務め、2024年より同大学名誉教授。
日本建築学会、木質構造研究会、NPO木の建築フォラム、住環境価値向上事業協同組合(SAREX)などの理事・委員を歴任。

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